アクセサリーの製法いろいろ

シルバーのアクセサリーを作るにも、そのデザインや用途によって作り方が違います。
銀の板や線、つまり金属そのものを加工してアクセサリーを作る彫金。それなりの技術や道具が必要です。そしてワックスと呼ばれるロウのような素材を加工して原型を作り、石膏に埋没したのちに高温でワックスを溶かしてできた空洞に金属を流し込む、ロストワックス製法(鋳造)。
今回ご紹介したいのは、第3の方法とも言える、銀粘土でのアクセサリー作りです。銀粘土は純銀の微粉末と水とバインダー(つなぎの成分)が混ざり合った粘土状の素材で、造形して乾燥後、高温で焼成するとほぼ純銀(純度99.9%)になる素材です。
銀粘土のメーカーは2社あり、相田化学工業の「アートクレイシルバー」、三菱マテリアルの「PMC」で、それぞれ独自の教室や資格の認定制度があり、自宅で楽しめる基本的な道具がセットになった初心者向けのキットも販売しています。

実は私インストラクターの資格持ってました。

実は私(アジト)は25年ほど前に銀粘土のことを知り、もともと石粉粘土や樹脂粘土で造形をしていたので相性が良かったんだと思いますが、すっかりハマってしまって教室に通い指導インストラクターの資格を取得。不定期に場所を借りての教室や、仲良しグループのための出張教室を開いたり、革細工も同じ頃に始めたのでそのためのパーツ作りや、銀粘土で作ったものを原型にして鋳造業者に依頼して量産し、イベントやネットで販売とかもしてました。
そんなこともあって、買ったはいいけどなかなか手がつけられないとか、ちょっとやってみたけどうまく形にならなかったとか、知人から銀粘土の扱いで相談を受けることがしばしば。
実売で3000円台から「はじめての〜」的なキットが売られていますが、正直いきなり初めて銀粘土を扱うのは難しいと思います。銀粘土の特性をしっかり把握して制作しないと、1gあたり200円以上する高価な素材なので失敗したらショックは大きいですよね。

左)銀粘土で制作したシルバー作品いろいろ。手元に残っているのはゴツイものばかり(笑)。
中)自作の革の時計バンド用に作成したコンチョと留め金具。
右)2000年発行のインストラクター登録証。銀粘土技能なんとかっていうのもあったはずだけど行方不明。

ネットで購入したキットで指輪を作ってみる

今回「指輪を作ってみたい」と相談者が購入したのは相田化学工業のアートクレイシルバースターターセット【銀粘土 5g増量・リングモールド・レシピ付き】6,600円。増量分含めて15gの銀粘土と、基本的な道具がセットになっているもの。銀粘土自体の素材の進化もあって、以前は800〜900度の高温で電気炉で焼成していましたが、今は650度で焼成できるため、家庭のガスコンロの火の上に置いて焼成するための網も入っています。(あくまでも簡易的な方法で、本当は電気炉で温度を設定しての焼成がベスト)

Amazonや楽天で買える6,600円のスターターキット。DVDはまだ見ていません(笑)

セット以外であったら便利なのは、クッキングシートと少し幅広のポストイット、ゴム台、造形中に粘土に水分を与えるための水を入れる小さな器とかかな。
「さあ、やってみよう」と箱を開けて説明書を読んでも、粘土の封を切るのに勇気がいるみたい(笑)。
銀粘土は水性の粘土で、手早くはじめの形を整えないと乾燥してひび割れしてしまいます。リングを作る場合は、焼成した際に収縮するので、その分を見越した2〜3番くらい大きめのサイズで棒状に伸ばした粘土を芯棒に巻きつけなければいけないのですが、手早く作業するにはちょっと慣れが必要です。この際にうまく連結部分がくっついていなかったり、もたもたして乾燥してひびが入っていると後々破損の原因になります。


結局相談者が見守る中、私が作業するかたちに(笑)。巻きつけてベースの形がOKならドライヤーで十分乾燥させます。ここで乾燥が不十分だと、芯棒からはずす際に簡単にボロッと砕けます。ここからペーパーやヤスリ、場合によっては彫刻刀などを使ってイメージの形に近づけていきます。焼成前であれば、さらに粘土を盛って肉付けしたりもできます。
この辺りの作業は彫金というより、粘土を盛り付けて形を作っていく彫塑や、粘土をこねて形を作って乾燥して焼成するという流れは陶芸の感覚に近いですね。
形が整ったらいよいよ焼成です。よく乾燥させて、今回はキット付属の金網をキッチンのガスコンロにセットして焼きます。

銀粘土は焼成すると純度99.9%の純銀になります。

銀粘土は先に説明したように、純銀の微粉末と水とバインダーからできています。乾燥することで水分が抜け、焼成することでバインダーが燃えて無くなります。その際に銀の微粉末が再結晶化して結合するのでバインダーがなくなった分ぎゅっと縮むんです。
銀粘土のパッケージを見ると銀の含有量が90%となっています。残りの10%は水とバインダーということになります。それがなくなることで銀の純度は99.9%になるんです。
今回、昼間にキッチンのガスコンロで焼成したのですが、これはできれば暗い時にしたほうがいいですね。バインダーが燃えてなくなる様や、作った指輪などが赤く熱を持つところが目視しにくいです。
あと、赤くなった高温の状態を数分間保持するのですが、最近のキッチンのコンロには安全装置がついていて、網が高温になると空焚きと認識するためか火力が落ちたり火が消えたりしちゃいます。カセットコンロでも温度は確保できると思うので、次回はそちらでやってみます。
色の変化が確認できず、ちょっと不安だったのでカセット式のバーナーで追い焼きしたのですが、つい加熱しすぎて一部溶かしちゃいました(銀の融点は960度)。
しっかり熱を冷まして、コンクリートのような硬いものに当てて「キンキン」と軽い金属音が確認できたらOK。鈍い音や濁った音がする場合は焼成が不十分かヒビが入っている可能性があります。

さて、仕上げが大事

焼成後、粘土はもう金属に変わっています。ここからの作業はまさに彫金。今回はちょっと溶かしちゃった部分の処理も含め、金属用ヤスリでガリガリ削って成形して、磨きヘラという金属の棒で表面を整えていきます。その後サンドペーパーを800番、1200番、2000番とかけて最後はコンパウンドで磨きます。
中性洗剤で洗って硫黄を含んだ溶液につけて黒く燻して、再度磨き込んでやっと完成です。
粘土成形からここまでの一連の作業、なかなかめんどくさいでしょ?(笑)
慣れも必要ですし、根気となにより「こんなものが作りたい!」というやる気がないと完成まで漕ぎ着けるのは難しいかもしれません。

銀粘土の作品って脆かったり弱かったりするの?

これも時々聞かれるんですが、ちゃんと作ればそれなりに強度は出せるし、極細のリングとか、デザインによっては違う作り方、素材を使うという見極めが必要です。
銀粘土は他の金属と違って、超微細な穴があるスポンジのような多孔性という組成である特徴があります。そういう意味では他の金属と比べて弱いかもしれません。ですが、銀自体もともと柔らかい金属です。よくアクセサリーにある「925」という表記は、92.5%銀で残りの7.5%は銅など他の金属を混ぜた合金にして硬度を上げているという意味です。
銀粘土で作った指輪を落としたら割れたとか、砕けるように壊れたという話も聞きますが、多分それはちゃんと作ってなかったから(笑)。粘土状態での成形時にすでにヒビが入っていたり、焼成が不十分(銀の再結晶化が完全でない)だったりが考えられます。


ちなみに私が毎日身につけている龍のリングは、細かいモールドの磨耗はありますが、制作からすでに20年経っています。
最初に言いましたが、銀粘土に限らず素材の特性を知り、それを生かしてものづくりするという気構えは何にしても必要ですね。
こんなご時世なので気軽に教室を開いたりはできませんが、何か質問、アドバイスの希望などありましたら、zattä アジトイシヅカまでどうぞ。