漕ぐには良い日だ

 うつろいやすい浅い春の天気も、昨年から「超晴れ男」の呼び名を欲しいままにする、私・アジトのパワーで一週間前の予報を覆して天晴れの土曜日。半袖でいけるほど暖かいカヤック日和となりました。今回馬込川遡上ツアーに参加するのは松下夫妻と私アジトの3人。
 ガイドの鈴木克章さんは、浜名湖シーカヤックツアーズ代表で、シーカヤックで単独日本一周をしたり、古代の舟で海を渡ったりと、普通の生活の中では得ることのできない貴重な体験を積み重ねているツワモノ。安全への配慮もバッチリで初心者でも安心してツアーに参加できます。
 白波が立つ太平洋が見える、海の始まりと川の終点あたりが今回のツアーの出発地点。干潮のタイミングを見計らって浅瀬に艇を降ろし、パドルの使い方、操艇の基本のレクチャーを受け、いよいよ水の上へ。松下夫妻はタンデム艇、そして私がお借りするカヤックは、なんと鈴木さんが日本一周に使ったという艇。鈴木さんのYouTubeチャンネルで見ていた赤いカヤックに乗れるなんて感激。

慎重に水辺までカヤックを運ぶ
初心者の我々にもわかりやすくレクチャーをしてくれる鈴木さん

いざ出航

 水際でコクピットに乗り込み鈴木さんに押し出してもらって出航。海からの波と川の流れが交差しているので思ったよりも揺られる感じ。水の上にそのまま座っているような感覚で、お尻の下の水の動きが直に感じられるのはカヤックならではですね。何しろ30年程前にダム湖で乗って以来のカヤック。全くの未経験ではないにしろ、最初はおっかなびっくり。体重の移動で簡単に艇が傾いて転覆しそうなので、あまり大きなモーションをつけないようにパドルを操つり、少しづつ川を上リ始めます。松下夫妻も右へ左へ進路を修正しながらも前進。

川はまっすぐとは限らない

 河口を出発してまだ慣れない操艇に四苦八苦しながら進むとすぐに、芳川との合流地点で川は大きく西にカーブしています。馬込川は浜松市街を縦断して海へと続く、生活圏の中の慣れ親しんだ川なんだけど、結構蛇行している川なんだなあと改めて実感。それに思った以上に川幅が広く感じられます。
 中田島橋が見えてきた所で、橋のたもとにある行きつけのお好み焼きの店「どんぐり食堂」の店主・ともちゃんに「もうすぐ橋にかかるから写真撮って!」と連絡。橋は見えてるけどなかなかたどり着けない。ちょっとお待たせしちゃったかな。橋の上から撮ってもらった写真を後から見ると、3艘のカヤックはまるで川面を漂う木の葉のよう。動画も撮ってもらえて感謝。

河口からしばらくは思った以上に川幅がある
橋の上からはこんな風に見えていたらしい

馬込川の水は思ったより綺麗

 水辺の野鳥やカメの甲羅干し、カニの巣穴、葦の群生など、車で橋を渡るだけの日常では知ることのない景色が新鮮。車窓から投げ捨てられたであろうペットボトルやコンビニ袋に入ったゴミ、不法投棄の自転車やスクーターも目の前の障害物・あるべきでないものとしてリアルに認識できます。
 国道1号線の橋をくぐり、緩やかに北に向かうカーブを抜けると、プレスタワー、アクトタワーが進行方向に現れます。川の上からみるその風景は、日常と非日常が入り混じった、なんだか不思議な感じです。
この辺りから川沿いに住宅が並び、堤防沿いの歩道を散歩する人が手を振ってくれたり、声をかけてくれたりと、急に人の生活というか気配を感じます。道ゆく人には馬込川を漕ぎ進むカヤックはかなり異質な存在に見えていたんじゃないかな。(みんなわりと面白がってくれていたようだけど)
 一昔前はこの辺りの川水はもっと汚いイメージがあったのですが、今はだいぶ綺麗な印象です。これは工場排水の厳しい規制や、下水道の整備と河川浄化センターの働きのおかげでしょう。(ポイ捨てがなくなればもっと綺麗なのに)
 浅瀬に四苦八苦しながら進み、折り返しポイントに上陸。鈴木さん特製のチャイをいただいて休憩。午後イチからのツアーでしたが、気がつくと思いの外時間が過ぎていて、ポカポカだった陽射しもだいぶ西に傾いて肌寒い感じに。

いつもは車で通過する国道1号線の橋の下なんだか不思議な感じ
タンデム艇ならカップルで楽しめるね 松下夫妻も楽しそう

下りは楽なんて言ったの誰?

 「流れに乗って帰れば楽勝!」と思っていた下りなのですが、思ったより苦戦。川がまっすぐではないので、流れにも癖があるようで、浅瀬に持っていかれて動けなくなったり、しっかり漕がないと思った通りの航路を取れないのでなかなかしんどい。それにやはりだいぶ疲れが・・・。海が近くなって川幅がドーンと広がると余計にどこを進もうか悩みます。先を行く鈴木さんの背中を見ながら、上る時よりも操艇に気を使い、ようやくゴール。出発点に無事帰り着きました。
 想像はしていたけど、パドルを操作する腕はもちろん、腹筋・背筋と結構艇内で踏ん張っていたからか両足までも、ともかく全身筋肉痛。日頃の運動不足が如実に現れます。カヤックから降りてもまだ少し浮遊感というか、水の上の感覚が残っていて、地面を踏みしめる感触がいつもと違う感じ。
 艇を車近くまで引き上げ、キャリアに積み込んで車のシートに座ったところで「ほ~っ」とため息とともに漕ぎきった充実感と満足感に包まれました。

幾多の川を制した男風・・・実はど素人のアジト
「大丈夫?」と我々の疲労度を気遣ってくれる鈴木さん

浜松ならではの水辺の冒険

 鈴木さん、松下夫妻と一緒に、橋の上から写真を撮ってくれた「どんぐり食堂」へ行って晩御飯。
 普段見ている川もカヤックに乗ってみると印象がだいぶ違うこと、川の生き物たちのこと、すごく目についたゴミの多さのこと、距離にしたら往復でも10キロ程の小さな冒険でしたが、その後の高揚感で話は尽きません。
 すっかり陽も沈み、お腹も満たされ、楽しかった1日を思い返しながら帰宅。
 「身近で体験できるこんな冒険をもっとたくさんの人に知ってもらいたい」「馬込川だけじゃなく、浜名湖やいろんな水辺を漕いでみたい」と、次の冒険をついつい思い描いてしまいます。カヤック体験は自分の住んでいる浜松という街の再発見、恵まれた土地であることを再認識する方法の一つじゃないかなあと思いました。そして、悲鳴をあげる全身の筋肉に「明日日曜日でよかった」と思いながら深い眠りについたのでした。

興味のある方は「浜名湖シーカヤックツアーズ」主宰・鈴木克章さんまでメールで!
beachplant.project@gmail.com

鈴木さんのブログ「ひるまのながれぼし」
https://hirumanonagareboshi.hamazo.tv/

Youtube「カツカヤックのシーカヤック日本一周」
https://www.youtube.com/channel/UCmj6Ev-KyQndmRa2opbYJ5w